コミュニケーションは「技術」── 日本人一人体制で作りあげたWeb制作会社 VIETRY

日本人は自分ひとり。ベトナム人社員35人とともに、ホーチミン市でWeb制作会社を率いて約15年。VIETRY (ベトライ) の小川悟さんに、異国でのマネジメントで得た知見をうかがいました。

小川悟氏 | VIETRY CO.,LTD.
小川悟氏 | VIETRY CO.,LTD.

日本人一人体制のベトナムWeb制作会社

まず、VIETRY (ベトライ) での小川さんの役割から教えてください。

私はGeneral Director (以下、社長) ではありますが、いわゆるプレイングマネージャーです。

当社ではWeb関連の業務を中心に、日本とベトナムにお客様をかかえています。それらのプロジェクトの営業窓口や現場実務 (Webディレクション)をしつつ、バックオフィス業務についても、管理監督をしています。

日本人はお一人だとうかがいましたが、どのような組織体制でマネジメントしているのでしょうか。

各事業部門にそれぞれマネージャーやリーダーのポジションの現地社員がいます。
私は主にそういったリーダー層とコミュニケーションを取り指揮命令しています。

コミュニケーションに利用している言語はなんでしょうか。

社内で私が使用している言語は日本語です。
お客様のほぼすべてが日本企業です。

情報伝達は技術

ベトナムで外国人社員と働く上で、心がけていることはありますか。

外国人というか、実際にはベトナム人社員と働いた経験のみです。
その上で、私が重点的に心がけていることは、次の3つに分類できます。

  1. 話しやすい雰囲気をつくる
  2. コミュニケーションの負荷を減らす
  3. 率先垂範-組織の基準はまず自分が示す

前提として考えているのは、コミュニケーションは情報伝達の「技術」であるということです。
目的のために、合理的に実践する必要があります。

「話しやすい雰囲気」から説明してください。

まず「話しやすい雰囲気をつくる」ことは、ホウレンソウ (報告・連絡・相談) の質に直結すると考えています。

私には会社としての業務の品質を保つ責任があります。
しかし、私が必要な情報を十分に把握できていないと、問題の発見や対応が遅れ、トラブルにつながる可能性があります。
また、緊急時ほど迅速かつ正確に報告が欲しいものです。

だからこそ、普段から気軽に相談でき、細かなことまで隠さず話せる関係性を築いておくことが何より重要だと考えています。

とはいえ、相手が外国人で、社長だと、気後れするのが普通だと思いますが具体策はありますか。

まずは連絡手段・ルールを明確にすることが大前提です。
どのようなときに、だれが、だれに、どのような手段で報告するのか。

そのうえで私が心がけていることがあります。

  • 私自身が常に現場との接点を持つこと。
  • 忙しそうな雰囲気を出さず、笑顔で接すること。
  • 雑談も交えながら気軽に声を掛けること。
  • 相手の話をよく聞くこと。
  • 助言はわかりやすく行うこと。

私もそれらはすごく重要なことだと感じます。

さらに付け加えると、毎日、全社員向けのチャットで時事ニュースや技術・セキュリティ情報を共有し、同時に、社員にも積極的に意見を求めています。
こうした取り組みを、長年続けた結果、現場の社員から意見や相談が寄せられる機会が増えたように感じています。

ホウレンソウがあれば、私も具体的なフィードバックを行うことができます。
それは指導という側面のみならず、自分自身の考えや方針を明確化するのにも役立ちます。
その積み重ねが、組織としての価値観や判断基準を作り上げていくのだと思います。

オフィスでの会話風景 | VIETRY CO.,LTD.
オフィスでの会話風景 | VIETRY CO.,LTD.

話しやすさが課題解決に直結

社員同士も話しやすい環境にあると感じていますか。

そこが課題の一つでもあります。

当社のベトナム人社員は部署内では上司と部下間で気さくな関係構築ができています。
パーティションのないオフィス環境で、上司も部下が困っている素振りを見せればすぐに声を掛けることができます。
一方で、部署へのロイヤリティが高すぎて、いわゆる縦割り組織になりやすい傾向があると感じています。
その結果、部署間の情報共有不足を懸念しています。

「縦割り」への対策を講じていますか。

たとえば、プロジェクト終了時に「Wrap up (ラップアップ)」を実施しています。
プロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーがプロジェクトを振り返り、総括するものです。
プロジェクトの概要や苦労した点、導入した技術などを成果物とともに社内全体へ共有してもらっています。

外国人にとって日本語自体が負荷である

では3つのうち、次の「コミュニケーションの負荷」を具体的に説明してください。

ベトナム人社員にとって日本語は母語ではありません。
日本語がどれだけ堪能な社員であっても、日本語で業務を行うこと自体が一定の負荷になります。
しかも人によっては外国人にはわかりにくい、婉曲的な表現や「それ」「あれ」などの指示語で何が言いたいか曖昧なこともあります。

そのため、できるだけ日本語でのやり取りを減らせる体制づくりに取り組んできました。
たとえば、Figma (デザインツール)を利用すれば、お客様もレイアウトに直接テキストを貼り付けることができるため、言葉を使った説明による齟齬を減らせます。
メールの添付ファイルに頼らず、Backlog (プロジェクト管理ツール)、Git (バージョン管理ツール)で管理することで履歴が残るので、お互いに何度も同じことを説明する無駄を減らせます。
生成AIの精度もあがり、ベトナム人社員が日本語で提案する際にも、日本人によるネイティブチェックが最小限で済みます。

つまり、日本語でのコミュニケーション自体が理解の齟齬を生むリスクだということでしょうか。

そうですね。曖昧な指示や認識のずれを抱えたまま進めると、依頼する側からすると「こんなつもりはなかった」が発生しやすくなります。

それで成果物を修正するだけなら、まだいいです。
時にはお客様へ誤解が生じた原因の調査・報告が必要な場合もあります。
これは我々にとっても、お客様にとっても利益にならない時間です。

さきほど「話しやすい雰囲気」について述べたとおり、コミュニケーションの必要性は重視しています。
しかし、同時に「コスト」でもあるという認識も重要です。

だからこそ、「日本語」を減らす仕組み作りを行い、その分、社員には、お客様への気配りや品質追求、社員自身の成長につながるコミュニケーションに使ってほしいと考えています。

費用対効果を出せるコミュニケーションが必要ということだと思いますが、少し具体化できますか。

たとえば、お客様のITリテラシーに合わせて伝え方を工夫したり、気配りの一言を添えたりといった配慮には相手の立場や意向を考える余裕が欠かせません。
日本語そのものに時間を費やしては余裕が失われてしまいます。
社員に対しては、言われたことを忠実に実行するだけでなく、お客様が本質的に実現したいことは何かを考え、その実現に向けて自ら提案できる人材になってほしいと思っています。

率先垂範が組織作りのかなめ

「組織の基準はまず自分が示す」はバックグラウンドを共有しない人々と働く際には、特に重要ですね。

当社では社員が日々の仕事で見本とできる日本人は、実質、私のみです。
そのため、社長であると同時に現場の指揮官として、リーダー層に対して自ら行動で示すことを意識しています。

実務に限りません。
私が本気であれば、「何を大切にする会社なのか」というメッセージも自然と伝わっていきます。
そうして形成された組織文化がリーダー層に浸透し、さらに採用や育成の基準へと定着していくことを期待しています。

とはいえ、日本人管理者だけで現地社員一人ひとりの信頼を得ることには限界があるとも感じています。
やはり、社員は母国語で相談したい、センシティブな内容もあります。
よって、現地マネージャーが組織の中核として機能する環境づくりも私の重要な役割です。

「伝えたのに伝わらない」は思考法の問題

今でこそ、そのように明確な指針をもって活動できると思いますが、ベトナム赴任時に試行錯誤したことはありますか。

赴任当初に苦労したのはコミュニケーション面でした。
「指示が伝わりにくい」「ホウレンソウが少ない」「要点が分かりにくい」などの内容です。

「伝わりにくい」はいろいろな状況が考えられます。どういうことでしょうか。

たとえば、こちらが十分に説明したつもりでも、実際には十分に理解されていないということです。

「特に固有名詞は絶対に間違えないでください。たとえばJavascriptは誤りです。正式表記はJavaScriptです」と指示しても、同様の固有名詞である「WordPress」が「Wordpress」となったまま修正されない。
そんなケースがよくありました。

具体的に依頼したことはやってくれるのですが、それ以外の類似する修正が展開されないというのが一例です。

その原因について、言語の問題以外に考えられることはありますか。

前述の「JavaScript」も「WordPress」も英語です。
表記ミスは母国語の問題ではありません。

想像ですが、ロジカルシンキングのようなビジネスに役立つ思考法を学ぶ機会が少なかった人もいたのだと思います。
思考法を学べていない人ほど、「指示待ち」傾向が見られました。
そして、そうした人の多くが責任を伴う判断には慎重で、ベトナム人社員の間には、「まずは指示どおりに進めること」を優先する価値観が根付いているようにも感じました。
また、中途採用の人など、それまでの仕事の進め方が定着してしまっている人ほど、考え方や行動を変えるには時間がかかった印象もあります。

ただ、個人差はありました。
ベトナム人社員に対して全体的に上記のような傾向を感じたのは事実ですが、根本的には「ベトナム人だから」ではないと思います。
結局、国籍や人種の問題ではなく、個々人の環境の違いが大きいです。
つまり、会社の文化や制度で対処可能な問題だということです。

それでは、どうやって思考法を身につけてもらったのでしょうか。

たとえば、マネージャー向けには外部のロジカルシンキング研修を受講してもらい、リーダー向けにはトヨタ自動車さんで有名な「なぜなぜ分析」を行い、深く考える習慣づけを試みました。
また、そういった事柄に対して、随時フィードバックを行うことで、今もなお、改善と定着の努力を続けています。

精神論では成り立たない、時間内で成し遂げるのがマネジメント

ベトナムでの長年にわたる経験を通じて、「学び」として実感することはありますか。

いろいろありますが、最も大きな学びは、タイムマネジメントの重要性です。

お恥ずかしい話ですが、ベトナム赴任当初、私自身は「何時までかかってもやり遂げる」という働き方が当たり前だと思っていました。そういった環境でキャリアを積んできたからです。

しかし、ベトナム人社員は定時に退社するのが普通です。
それが当たり前の環境ですので、もし期限内に業務が終わらなければ、それはマネジメント側、つまり私の責任と考えるべきです。

ちなみにインターネット上でみかける外国人が日本人を揶揄するジョークに「日本人は時間を厳守すると言われるが、それは出社時間だけで退社時間にはルーズだ」というのがあります。
ベトナムに赴任した当初の私が、まさにそれでした。

「がんばれば何とかなる」という精神論には限界があります。
たしかに精神論が求められる状況もあります。
しかし、限られた勤務時間の中で成果を出すことが大前提です。

ゴールから逆算して計画を立てること、不測の事態を見越して余裕を持ったスケジュールを組むこと、そして優先順位を明確にすること。
これらを口で唱えるだけではなく、実行していくことが重要です。
時間内に期待された成果を出せる仕組みづくりこそがマネジメントだと考えています。

オフィスでの勤務風景 | VIETRY CO.,LTD.
オフィスでの勤務風景 | VIETRY CO.,LTD.

自分自身もまた評価される一個人であるという自覚

約15年にわたりベトナムで働いてきた多文化共生の「先輩」として、他の日本人に伝えたいことはありますか。

ベトナムなど、新興国で働くことになったら、まず大切にしてほしいのは「尊重」の姿勢です。

ベトナムではベトナム人社員がマジョリティであり、日本人はマイノリティです。
そこで「日本ではこうだ」と押しつけることに、なんの効力があるでしょう。

「ベトナム人はこういう人たちだ」と一括りにするのではなく、一人ひとりの個性や強みを理解し、それぞれに合ったコミュニケーションを取ることが何より重要だと思います。

また、「ベトナムは親日国だから」「日本の仕事の進め方を広めればよい」といった考え方にも注意が必要です。
日系企業で働きたい社員の中には日本に良い印象を持っている人も多いです。
しかしそれは日本という国や日系企業への期待であって、自分自身への評価とは別のものです。
「日本」という看板を自分の力と錯覚すべきではありません。
必要なのは、自分自身が信頼され、価値を提供することです。
社員に価値を求めるだけではなく、自分自身も上司としての価値を認めてもらうのです。

なお、これは現地の駐在員だけではありません。
ベトナムに仕事を依頼する日本人にも言えることです。
たとえば日系企業の本社から現地法人への依頼であれば、どうしても現地法人の社員からは本社の人間が上の立場に見えてしまいます。
尊敬できる相手か、もしくは一緒に仕事をしたい相手か。
それを現地の人々は見ています。

日本は経済が落ち目といわれつつも、東南アジアでは今もなお大きな存在感を誇っています。
だからこそ「日本人なのに」ではなく「さすが日本人」と言われるような仕事をしたいものです。
ベトナム経済や現地社員の成長を支えながら、自分自身も大きく成長できる──そんな経験をぜひ楽しんでいただければいいと思います。

日本でやりがいをもって働くために伝えたいこと

逆に日本で働く外国人の方々に送りたいメッセージはありますか。

業種にもよりますが、日本企業では専門的な知識やスキルだけでなく、「会社の一員」としての役割を期待されることが多いです。
つまり、自分に与えられた業務だけでなく、会社の発展にどう貢献できるかを考えながら仕事をすることを求められがちです。
ただ言われたことを実行するのではなく、その仕事の背景や目的まで理解したうえで取り組むことで評価されます。
そして、きっと、それは自身の成長にもつながります。
言い換えれば、「What (何をするか)」だけではなく、「Why (なぜか)」まで意識して仕事に取り組んでください。そうすれば、日本での仕事がもっともっと楽しくなるでしょう。

長年にわたる感謝

では最後に、ともに働く社員に対してのメッセージもお願いします。

現在、社員の約30%が勤続10年を超えています。
ベトナムには魅力的な企業が数多くある中で、それでも当社を選び、長く一緒にがんばってくれている社員には感謝の気持ちでいっぱいです。

私自身、約15年にわたり多くのことを学んで、大きく成長することができたと感じています。
そして、それ以上に社員一人ひとりも着実に成長してくれています。

以前、当社では「Make your career!」という取り組みを行いました。
社員全員が、自身のポートフォリオを作成するというものです。
私は、クリエイターにとって「自分を伝える力 (セルフブランディング)」も大切な能力の一つだと考えています。
また、自身のスキルを棚卸しし、これから伸ばすべき点を自覚することで、成長への課題意識を持つきっかけにもなります。

そのポートフォリオは転職や独立を手助けしてしまうかもしれません。
しかし、当社でも昇格やキャリア形成に活用できる仕組みにしていますし、社員一人ひとりが成長すれば、その姿勢や知識は周囲にも良い影響を与え、結果として会社全体の成長にもつながります。

だからこそ、私は社員が安心して挑戦し、自由闊達に意見を交わしながら成長できる会社であり続けたいと思っています。
そして、会社と社員がお互いに成長し合える組織を、これからも目指していきたいと考えています。

社員のみなさん |  VIETRY CO.,LTD.
社員のみなさん | VIETRY CO.,LTD.